熱伝導方程式

 熱伝導方程式は熱移動に注目した方程式で,熱力学分野に属さず,伝熱工学という機械工学の分野で発展してきました.住宅の断熱壁構造や半導体の熱冷却等が馴染みのある技術応用だと思います.
 熱力学では熱量が主役で,伝熱工学でもそれは変わりませんが,熱流束が大変活躍するところが面白いです.

熱量と熱流束の関係

(a)フーリエの熱伝導の法則
 空間上に熱量の高い所と低い所が存在すると,高い所から低い所に向かって熱が移動し,熱流束が発生し
\begin{align}
\boldsymbol{q}(\boldsymbol{x},t)=\kappa\nabla Q(\boldsymbol{x},t)
\tag{1}\label{eq:Fourier}
\end{align}
と書けます.フーリエの熱伝導の法則と呼ばれ
\begin{align}
\boldsymbol{q}=\lambda\cfrac{\partial T}{\partial x}
\end{align}の方が見慣れている人が多いと思います.\(\kappa\)の熱拡散係数という物性値で定数とみなすことが多いです.\(\boldsymbol{q}\)は熱流束で単位は\({\rm [J/m^2\cdot s]}\)とし,\(Q\)は熱量で,ここでは\({\rm [J/m^3]}\)と単位体積あたりの量を示します.

(b)熱流束の発散
 熱量の増減は,熱流束の発散によってもたらされ
\begin{align}
\cfrac{\partial Q}{\partial t}=\nabla\cdot\boldsymbol{q}
\tag{2}\label{eq:div}
\end{align}
の関係式で表すことができます.水で考えてみた場合,水の流速\(\boldsymbol{v}\)は体積フラックスを表すと,記事’速度 ⇒ 体積フラックスの意味と体積流量との関係‘で説明しましたが,水は流入した分追い出され体積流量の発散は収支ゼロとなり\(\nabla\cdot\boldsymbol{v}=0\)となるのに対し,熱は流入した分溜め込むことができます.溜め込んだ分は,式(\ref{eq:div})のように時間増減します.

,

 また,式(\ref{eq:div})はガウスの定理に当てはめることもでき
\begin{align}
\cfrac{\partial}{\partial t}\int_V QdV
&= \int_V \nabla\cdot\boldsymbol{q}\, dV \\
&= \int_S \boldsymbol{q}\cdot d\boldsymbol{S}
\tag{3}\label{eq:gauss-div}
\end{align}
も成立します.

熱伝導方程式

 式(\ref{eq:div})に式(\ref{eq:Fourier})を代入して
\begin{align}
\cfrac{\partial Q}{\partial t}=\nabla\cdot(\kappa\nabla Q)
\tag{4}\label{eq:heat-eq}
\end{align}
とかける熱伝導方程式が導出されます.さらに\(\kappa\)を定数と見なし,高校で習う熱容量の式
\begin{align}
\cfrac{\partial Q(\boldsymbol{x},t)}{\partial t}=\rho c\cfrac{\partial T(\boldsymbol{x},t)}{\partial t}
\end{align}
を導入して,
\begin{align}
\cfrac{\partial T}{\partial t}
=\kappa \biggl(\cfrac{\partial^2 T}{\partial x^2}
+\cfrac{\partial^2 T}{\partial y^2}
+\cfrac{\partial^2 T}{\partial z^2} \biggr)
\end{align}
とかけます.ラプラスで書かれた美しい方程式です.機械工学系では,実測できる温度\(T\)を主役に持っていきたく,離散方程式の方が勝手がいいので,こんな書き方で表すことが多いです.もちろん,ケースバイケースで使い分けていると思いますが.

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