移流項、別名非線形項\((\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}\)は「非線形だから計算が難しい…」、「非線形性のために読みにくい挙動をする…」とか聞いたことありませんか?
式の形が複雑でなんとなく納得したような、、しないような、、、
「非線形」でググって調べたりすると、材料力学や構造解析分野の物体にかかる力の話になるか、数学分野の小難しい記号だらけの話になって、理解を諦める人も多いと思います(涙)
結論を言いますと、非線形項は数学で定義される非線形を指します。
ですよね(苦笑)と言いたくもなりますが、最近は理工系でも線形代数を行列計算のところだけ勉強して、抽象的になってくるベクトル空間や写像などまでやらない大学も多く「線形」の意味が曖昧なままでいる人も多いと思います。これを機に非線形項に馴染みを持ってもらって、線形代数に興味を持ってもらえれば嬉しいです。
線形の意味
線形とは以下の二式を満たすものを言います。
\begin{eqnarray}
f(k\boldsymbol{x}_1) &=& kf(\boldsymbol{x}_1), \qquad kは実数\tag{1} \\f(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2) &=& f(\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2). \tag{2}
\end{eqnarray}
さて、線形と言われて直線の\(y=ax_1\)が当てはまり、曲線の\(y=ax_1^2\)は非線形なのは理解できますよね。この例を使って、線形の定義が本当に成り立つか確認していきましょう。
\(f(x_1)=ax_1\)を式(1)に当てはめると、
\begin{eqnarray} f(kx_1) &=& a(kx_1) \\ &=& k(ax_1) \\ &=& kf(x_1),\end{eqnarray}
また式(2)も
\begin{eqnarray}f(x_1+x_2) &=& a(x_1+x_2) \\ &=& ax_1+ax_2 \\ &=& f(x_1)+f(x_2)\end{eqnarray}
と満たしますので、\(f(x)=kx\)は式(1)(2)をを満たし線形であるのが確かめられました。
\(f(x_1)=a{x_1}^2\)は式(1)に当てはめると
\begin{eqnarray} f(kx_1) &=& a(kx_1)^2 \\ &=& \frac{k^2}{a}(ax_1)^2 \\ &=& \frac{k^2}{a}f(x_1) \quad\neq kf(x_1)\end{eqnarray}
となり、式(1)を満たさないので非線形だと分かりました。ここで終わらせてもいいのですが、せっかくだから式(2)も成立しないことも計算してみましょうか。
\begin{eqnarray}f(x_1+x_2) &=& a(x_1+x_2)^2 \\ &=& a{x_1}^2+a{x_2}^2+2ax_1x_2 \\ &=& f(x_1)+f(x_2)+2ax_1x_2\\&\neq& f(x_1)+f(x_2).\end{eqnarray}
非線形項\((\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u}\)の非線形の確認
次に移流項の非線形性を確認してみましょう。
\begin{eqnarray} (\boldsymbol{u}\cdot\nabla)\boldsymbol{u} = \left( \begin{array}{ccc} u\cfrac{\partial u}{\partial x} + v\cfrac{\partial u}{\partial y} + w\cfrac{\partial u}{\partial z} \\ u\cfrac{\partial v}{\partial x} + v\cfrac{\partial v}{\partial y} + w\cfrac{\partial v}{\partial z} \\ u\cfrac{\partial w}{\partial x} + v\cfrac{\partial w}{\partial y} + w\cfrac{\partial w}{\partial z} \end{array} \right) \end{eqnarray}
と展開しまして、\(x\)成分の一項目のみを取り出した\(f(u(x))=u(x)\cfrac{\partial u(x)}{\partial x}\)が非線形であることを、線形の定義式によって確認してみましょう。
まず、式(1)を満たすか確認します。
\begin{eqnarray} f(ku(x)) &=& (ku(x))\cfrac{\partial (k u(x))}{\partial x} \\ &=& k^2 u(x)\frac{u(x)}{\partial x} \\ &=& k^2f(u(x)) \quad\neq kf(u(x)).\end{eqnarray}
式(1)を満たさないことが分かりました。ここで終わらせてもいいのですが、式(2)も確かめてみると
\begin{eqnarray} f(u_1(x)+u_2(x)) &=& (u_1(x)+u_2(x))\cfrac{\partial (u_1(x)+u_2(x))}{\partial x} \\ &=& u_1\frac{\partial u_1}{\partial x} + u_2\frac{\partial u_2}{\partial x} + u_2\cfrac{\partial u_1}{\partial x}+ u_1\frac{\partial u_2}{\partial x} \\ &=& f(u_1)+f(u_2)+ u_2\cfrac{u_1}{\partial x}+ u_1\frac{u_2}{\partial x} \\ &\neq& f(u_1) + f(u_2)\end{eqnarray}
となり式(2)も成立しません。
おわりに
もし、移流項が線形性を持っていれば、線形代数の分野範囲で扱うことができ、例えば、行列式をコンピュータに乗せちゃって、ガウスの消去法!!ヤコビ法!!みないに簡単に解くことができるのですが、非線形性のためこのようなことが単純にいかなかったりします。
現在はAIに代表されるように数学が重要な武器になる時代ですので、これを機にに線形代数を一通り学習することをお勧めします。
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