流体粒子
流体力学を知るに当たり流体粒子が何か理解する必要があります.流体粒子は流体の最小単位を粒子として捉えるものではありますが,流体力学に触れたことがない人は,水分子や空気の分子を想像するのではないでしょうか.または,流体の力学分野で出てくる用語なので,水分子などがゆらゆら運動している様子を想像する人もいるかと思います.実際にこのような研究をしている人もいますし,このような想像をする人はセンスさえ感じます.
ただ,流体力学は古典物理学を中心に構成されていますため,分子スケールではなく日常スケールで捉えるものであり,流体粒子は分子的な動きをマクロ的に統計的に平均化したものとして考えます.
たた,最小単位の概念でもあるため,平均化されたものを更に分子サイズを超えて極限微小として考えることを忘れないでください.まぁ、そこまで小さい世界を考えることは意味がないのですが…
平均化されたものと知って,科学としての面白さを探求する人にとってはモチベーションが今一上がらなくなるかと思いますが、これによって表現される流体方程式の奥深い数理的世界があり、また、一方で産業応用色のとても強い学問でもありますので,学んだからには相応の見返りが期待できます.めげずに頑張っていきましょう.
流体塊
流体塊…,それに相当する言葉が見当たらなく私の造語にはなるのですが,さらっと学者さんたちは当たり前のように使っている概念で,わざわざ説明される機会も少ないので,敢えて説明してみました.流体塊は流体で満たされた空間から任意に指定した部分空間のことを言います.この塊がふわふわ崩れることなく漂っているところを想像できるかが鍵になります.
流体塊でくくられた流体粒子の集合は,流体塊から出入りがないまま移動していきます.しかし人によっては,流体粒子が微量な振動を繰り返し,流体塊から外れて領域がぼやけていくのを想像することがあるでしょう.
または,激しく入り乱れた流れの中で,流体塊がバラバラに分裂していく様子を考えることもあるでしょう.
これらは拡散(前者:分子拡散,後者:乱流拡散)と呼ばれる重要な物理現象です.しかし拡散現象を考えなければ,そう簡単に流体粒子はバラけず流体塊として運動していきます.流体力学のイントロダクションでは,拡散を流体運動から外すことにより考察しやすくことが根底にあります.
流体塊の重要性
流体を塊で見る理由は,流体が膨張収縮しても質量については保存則が成り立つ性質があるからです.膨張収縮する性質を圧縮性と呼びますが,流体塊が膨張しても粒子の数が同じであり質量も同じままです.なお,圧縮性は温度膨張や音速状態等で見られます.
更に流体塊は質量保存に加え,力学分野の二大巨頭保存則である運動量とエネルギーを保存する凄い性質も兼ね備えています.乱流拡散のように流体塊がばらばらになった場合もそうですし,例えば下図のように流体塊が岩にぶつかって二つに分かれた場合,粒運動量もエネルギーもきれいに2つ分かれるように自然界は作られているのです.
コメント
失礼します。とある事情により「流体塊」の使用例について調べていたところ、こちらのウェブサイトに遭遇しました。
じつは、ある人が、流体塊なるものが丸い粒子で満たされている絵を描いていたため、そのような絵は間違っている旨を説明しようとしてウェブ検索したら、まさにそれと同じ誤解を招きやすい絵がこちらに載っていたもので…。
なぜ間違っているかというと「流体塊でくくられた流体粒子の集合は、流体塊から出入りがないまま移動していきます」という説明のなかの「流体粒子」が曲者で、この流体粒子というのはマクロな流体素片の意味であるか、それともミクロな分子の意味であるか、いずれかの意味であると思われます。ところがマクロな流体素片というのは決して一定の丸い形をもつものではありません。常に変形していくものです。他方、流体粒子を流体分子だと解釈すると「流体塊から出入りがないまま移動していきます」というのは完全な誤りになってしまいます。実際には隣り合った流体塊どうしがミクロに粒子を頻繁に交換することでマクロには平衡に近い状態が維持されているからです。
こういう次第で、大変申し訳ないのですが「流体塊」は非常に誤解を招きやすい概念であり、特に丸い粒子で満たされた流体塊の絵を描くのはだいぶ不適切ではないかと思われます。たいへん有意義なウェブサイトのなかに間違った情報が紛れ込んでいるのを見過ごすわけにもいかず、僭越ながらコメントさせていただきました。何卒よろしくお願いします。
ご意見ありがとうございます。現在、本業が多忙でブログの修正まで手が回らず、しばらく検証及び修正が先になると思います。また、本ブログでは、プラスになる情報発信を優先しており、指摘修正は見つかり次第追ってという形にしております。学会で物議を醸す程であったり、学生がレポートで間違えた内容で引用する事態が多発するようであれば、記事の取り下げも至急致しますので、その時は改めてご連絡の程よろしくお願い致します。