本ブログのキー記事です.ですが,ちゃんと書かなきゃという気持ちが強すぎてなかなか気が進まなかったため,敢えて淡泊に書きました.
基本保存則とエンタルピー
物理は保存量を中心に構成されている学問だと私は捉えています.古典力学では以下(a)から(e)の物理量が保存量として成立し,エントロピーも増大則と言えど似た性質を持っています.
(a)エネルギー
(b)運動量
(c)角運動量
(d)質量
(e)電荷
(f)エントロピー
※(a)(b)(c)は時間変化で同時変化し(f)によって乱される構造で,(d)(e)も同一則のように思え,実質時間変化量の保存則と質量保存の2つの保存則で書き表されるのではないかと睨んでいます.ここのところを,いつかもっとシンプルに表すことが目標に置きたいです.
輸送定理
それで,保存量がどんな状態で成立するかという話です.以前,記事’1.流体粒子と流体塊‘で説明した流体塊上でが結論なのですが,角運動量や電荷,エントロピーもそれぞれがの粒子が持っている物理量で,時間経過しても流体塊上で変化することなく保たれます.エントロピーは法則的に増加することもあるのですが.
保存量は輸送定理
\begin{align}
\cfrac{d}{dt}\int_{V(t)}f(\boldsymbol{x},t)dV(t)
=\int_{V(t)}\biggl(\cfrac{\partial f}{\partial t}
+\nabla\cdot(f\boldsymbol{u}(\boldsymbol{x},t))\biggr)dV(t)
\end{align}
で時間変化していきます.\(\boldsymbol{u}\)は流速です.\(f\)に知りたい保存量を当てはめます.スカラー量,ベクトル量を含めたテンソル量で計算できます.例に,質量保存則に適用した記事’質量保存則‘,’運動量保存則‘を作りました.
オイラーの視点では?
上記定理はラグランジュの視点を前提で説明しましたが,オイラーの視点の場合はどのような見方になるのでしょう.オイラーの視点は定点観測のため,\(V\)は時間変化を考えず,微分と積分の交換定理により
\begin{align}
\cfrac{d}{dt}\int_{V}f(\boldsymbol{x},t)dV
=\int_{V}\cfrac{\partial}{\partial t}f(\boldsymbol{x},t)dV
\end{align}
となります.交換定理は数学の人達にとっては自明な位に当たり前らしく,名前は付いてなさそうです.定理自体は「微分 積分 交換」とググればすぐでてきます.\(f\)は保存量で,左辺は\(f\)の領域全量\(V\)の時間変化を示し,右辺はある点\(\boldsymbol{x}\)で\(f\)を時間発展させたものを後から領域全量\(V\)で足し合わせたというものです.要は全量\(V\)を時間発展させても,ある点\(\boldsymbol{x}\)の時間発展を先に考えても,どちらでも良いよってことです.保存量の保存性はラグランジュの視点で確認するものなので,オイラーの視点ではただ数量が変化していく様子を見るだけになります.
物質微分
保存量は流体に付随して動く量なので物質微分にも乗せることができます.高校では質点系物理学では速度は位置の時間変化と習いましたが,流体粒子の速度も位置の時間変化で表し
\begin{align}
\begin{pmatrix}
u\,\bigl(x(t),y(t),z(t),t\bigr) \\
v\,\bigl(x(t),y(t),z(t),t\bigr) \\
w\,\bigl(x(t),y(t),z(t),t\bigr)
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
\cfrac{d x(t)}{dt} \\
\cfrac{d y(t)}{dt} \\
\cfrac{d z(t)}{dt}
\end{pmatrix}
\end{align}
すなわち
\begin{align}
\boldsymbol{u}\bigl(\boldsymbol{x}(t),t\bigr)=\cfrac{d\boldsymbol{x}(t)}{dt}
\end{align}
とかけます.保存量は流体粒子に付随する物理量であって\(f(\boldsymbol{x}(t),t)\)と使用すると連鎖律より
\begin{align}
&\cfrac{df(\boldsymbol{x}(t),t)}{dt} \\
&\quad
=\cfrac{\partial f(\boldsymbol{x},t)}{\partial x}\cfrac{d x(t)}{d t}
+\cfrac{\partial f(\boldsymbol{x},t)}{\partial y}\cfrac{d y(t)}{d t}
+\cfrac{\partial f(\boldsymbol{x},t)}{\partial z}\cfrac{d z(t)}{d t}
+\cfrac{\partial f(\boldsymbol{x},t)}{\partial t}
\end{align}
となります.ここで実は左辺のラグランジュの視点から右辺のオイラーの視点に置き換える操作をしました.ただ,速度\(d x(t)/d t,d y(t)/d t,d z(t)/d t\)についてはラグランジュの視点のままですね.流速は物理的にオイラーの視点でもラグランジュの視点でも,方向および大きさは同値になります(そういえばここが結構大事な気が…).つまり
\begin{align}
\begin{pmatrix}
u\,\bigl(x(t),y(t),z(t),t\bigr) \\
v\,\bigl(x(t),y(t),z(t),t\bigr) \\
w\,\bigl(x(t),y(t),z(t),t\bigr)
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
u\,(x,y,z,t) \\
v\,(x,y,z,t) \\
w\,(x,y,z,t)
\end{pmatrix}
\end{align}
となるので
\begin{align}
&\cfrac{df(\boldsymbol{x}(t),t)}{dt} \\
&\qquad
=\cfrac{\partial f(\boldsymbol{x},t)}{\partial x}u(\boldsymbol{x},t)
+\cfrac{\partial f(\boldsymbol{x},t)}{\partial y}v(\boldsymbol{x},t)
+\cfrac{\partial f(\boldsymbol{x},t)}{\partial z}w(\boldsymbol{x},t)
+\cfrac{\partial f(\boldsymbol{x},t)}{\partial t} \\
&\qquad
=\cfrac{\partial f}{\partial t}
+(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)f
\end{align}
と書き換えられます.
ただ,実際の流体力学はテイラー展開から物質微分を導出することが多いので,ちょっと覗いてみましょう.保存量\(f(x,y,z,t)\)が\(dt\)時間後に\(f(x+udt,y+vdt,z+wdt,t+dt)\)に発展すると,多変数関数のテイラー展開より
\begin{align}
f(x+udt,y&+vdt,z+wdt,t)=f(x,y,z,t) \\
&+\biggl(udt\cfrac{\partial}{\partial x}
+vdt\cfrac{\partial}{\partial y}
+wdt\cfrac{\partial}{\partial z}
+ dt\cfrac{\partial}{\partial t}\biggr)f(x,y,z,t)
+\bigl(O(dt)^2).
\end{align}
右辺第一項を左辺に移動し,時間微分で割って
\begin{align}
&\cfrac{f(x+udt,y+vdt,z+wdt,t)-f(x,y,z,t)}{dt} \\
&\hspace{10em}
=\biggl(u\cfrac{\partial}{\partial x}
+v\cfrac{\partial}{\partial y}
+w\cfrac{\partial}{\partial z}
+ \cfrac{\partial}{\partial t}\biggr)f(x,y,z,t).
\end{align}
よって
\begin{align}
\cfrac{f(x(t),y(t),z(t),t)}{dt}
=\biggl(u\cfrac{\partial}{\partial x}
+v\cfrac{\partial}{\partial y}
+w\cfrac{\partial}{\partial z}
+ \cfrac{\partial}{\partial t}\biggr)f(x,y,z,t)
\end{align}
または
\begin{align}
\cfrac{f(\boldsymbol{x}(t),t)}{dt}
=(\boldsymbol{u}\cdot\nabla)f(\boldsymbol{x},t)
\end{align}
となります.テイラー展開を使った典型的な物理的導出方法です.物理屋さんはこの手法に慣れる必要も感じますが,計算手法に飛躍も見られ,数学的には連鎖律を使って解く方が,変数の意味合いも見失いにくく正確でないかなぁと思います.
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